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大阪高等裁判所 平成8年(ネ)1849号 判決

控訴人

吉識雅仁

右訴訟代理人弁護士

高谷昌弘

被控訴人

吉識静子

右訴訟代理人弁護士

中村吉男

山本淳夫

鷹喜由美子

岡田隆

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録記載一ないし六の各土地につき、福崎町農業委員会に対し農地法三条による所有権移転の許可申請手続をし、その許可があったときは、右土地につき右許可の日交換を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2(一)(主位的請求)

主文二項同旨

(二)(予備的請求)

被控訴人は、控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録記載一ないし六の各土地(以下、原判決添付別紙物件目録記載の土地を同目録記載の番号に従い「本件土地一」などという。)につき、昭和四六年二月一〇日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ(当審で原審での主位的請求を予備的請求、原審での予備的請求を主位的請求に各変更)。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  吉識ヨリ(以下「ヨリ」という。)は、控訴人の祖母で、被控訴人の亡夫吉識武雄(以下「武雄」という。)や控訴人の母吉識百合子(以下「百合子」という。)の母である。本件において、控訴人は、昭和四六年二月一〇日に百合子と被控訴人が各署名押印して作成した、被控訴人所有の本件土地一ないし六及び原判決添付別紙物件目録記載一〇の建物(以下「本件建物」という。)につき控訴人に対する所有権移転登記手続を、ヨリの本件土地七ないし九の共有持分につき被控訴人に対する移転登記手続をそれぞれ履行することを約諾する旨記載した登記申請履行契約書と題する書面(甲二、以下「本件書面」という。)により、農地である本件土地一ないし六の所有権を本件土地七ないし九の共有持分との交換により譲り受けたものであるとして、主位的に農地法三条による許可申請手続及び右許可の日交換を原因とする所有権移転手続を求め、予備的に本件書面作成の時点に本件土地一ないし六の占有を開始し、右の時点から一〇年又は二〇年の経過により本件土地一ないし六の所有権を時効取得したとして、右時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求めた[なお、被控訴人は、右主位的請求の追加的変更につき原審で異議を述べたが(原審では、当審での右主位的請求が予備的請求であり、当審での右予備的請求が主位的請求であったことは前記のとおりである。)、右主位的請求は、予備的請求と請求の基礎に同一性があり、これの追加により著しく訴訟手続を遅滞させるものではないので、右追加的変更は認められるというべきである。]。

二  争いのない事実等

1  ヨリは、控訴人の祖母で、被控訴人の亡夫武雄や控訴人の母百合子の母である(争いがない。)。

2  本件書面を作成した昭和四六年二月一〇日当時、被控訴人は農地である本件土地一ないし三、五及び六を単独所有し、本件土地四と本件土地七の元地(旧兵庫県神崎郡福崎町大貫字門田二三四七番一の土地、以下、兵庫県神崎郡福崎町大貫字門田所在の土地を地番のみで表示する。)、本件土地八、九をヨリと持分二分の一ずつ共有していた(争いがない。)。

3  百合子と被控訴人は、昭和四六年二月一〇日、被控訴人所有の少なくとも本件土地一ないし三、五、六及び本件建物につき控訴人に対する所有権移転登記手続を、ヨリの本件土地七ないし九の共有持分につき被控訴人に対する移転登記手続をそれぞれ履行することを約諾する旨記載した本件書面を作成してそれぞれ署名押印した(争いがない。)。

4  ヨリは、昭和四六年二月一〇日、本件土地七ないし九につき持分権を放棄し、それにより共有者である被控訴人に持分が移転し、同月一八日、右持分移転の登記を受けたので、右各土地は被控訴人の単独所有となった(争いがない。)。

5  本件土地一ないし六は農地である(争いがない。)。

6(一)  控訴人は被控訴人に対し本件書面を作成した昭和四六年二月一〇日の翌日から起算して一〇年以内に農地法三条の所有権移転許可申請協力請求権(以下、右許可申請を「本件許可申請」といい、右許可申請協力請求権を「本件許可申請協力請求権」という。)を行使しなかった(争いがない。)。

(二)  被控訴人は、本訴において、本件許可申請協力請求権の消滅時効を援用する(当裁判所に顕著である。)。

7  控訴人は、本件書面作成の時点に本件土地一ないし六の土地の占有を開始し、右の時点から一〇年又は二〇年の経過により本件土地一ないし六の所有権を時効取得したとして、本訴において、右時効取得を援用する(当裁判所に顕著である。)。

三  争点及びこれに関する当事者の主張

1  主位的請求について

(一) 本件書面により、控訴人及びヨリの代理人である百合子と被控訴人との間で、ヨリの本件土地七ないし九の共有持分を被控訴人に移転する代わりに被控訴人の本件土地一ないし六の所有権を控訴人に移転し、それぞれ各移転登記手続を行う旨の交換契約が成立したか否か。

(控訴人の主張)

百合子をヨリ及び控訴人の代理人として右交換契約が成立した。本件書面において、本件土地四も控訴人に対し所有権を移転する対象になっている。

(被控訴人の主張)

本件書面については、百合子の権限及び誰に対して何をすることを約束しているのかが不明確であるので、本件書面により、右のような交換契約が成立したとはいえない。また、本件書面において、本件土地四は控訴人に対し所有権を移転する対象に含まれていない。

(二) 本件許可申請協力請求権の消滅時効が完成したか否か。

(控訴人の主張)

本件書面による交換契約は双務契約であるから、このような場合、契約の両当事者間で対象土地の所有権につき争いが生じるまでの間、本件許可申請協力請求権の消滅時効は進行しない。

したがって、控訴人と被控訴人との間で本件土地一ないし六の所有権につき争いが生じたのは平成四年四月であり、その後直ちに本訴が提起されているので、本件許可申請協力請求権の消滅時効は完成していない。

(被控訴人の主張)

控訴人は被控訴人に対し本件書面を作成した昭和四六年二月一〇日の翌日から起算して一〇年以内に本件許可申請協力請求権を行使しなかったので、本件許可申請協力請求権の消滅時効が完成した。

(三) 被控訴人が本件許可申請協力請求権の消滅時効を援用することが権利の濫用に当たるか否か。

(控訴人の主張)

被控訴人は、本件書面による交換契約に基づき、自己の受けるべき給付の履行(ヨリの本件土地七ないし九の共有持分の移転)を受けていること、右交換契約の際、控訴人が未成年者で学生であり、控訴人を直ちに農業従事者とすることは問題であるので、後日農地法上の手続をすることが予定されていたこと、被控訴人は、右交換契約の際、今後は本件土地一ないし六を管理する意思がなかったことを考え併せれば、被控訴人が控訴人に対し、本件許可申請協力請求権の消滅時効を援用することは、信義則に反し権利の濫用として許されないというべきである。

(被控訴人の主張)

本件においては、控訴人が本件許可申請協力請求権を行使するのに何らの障害もなく、単に権利行使に無関心であったに過ぎないのであり、本件土地一ないし六の占有も認められず、かえって、被控訴人が本件土地一ないし六の公租公課を支払ってきており、本件土地四を耕作してきているのであるから、被控訴人が控訴人に対し、本件許可申請協力請求権の消滅時効を援用することが信義則に反し権利濫用として許されないということはできない。

2  予備的請求について

控訴人が本件土地一ないし六の所有権を時効取得したか否か。

(控訴人の主張)

控訴人は、本件書面作成の時点に本件土地一ないし六の占有を開始し、控訴人が直接又は控訴人の占有代理人である百合子を通じて平穏かつ公然と占有を継続してきたので、右の時点から一〇年又は二〇年の経過により、本件土地一ないし六の所有権の取得時効が完成した。

(被控訴人の主張)

控訴人は、直接又は占有代理人である百合子を通じて、本件土地一ないし六を排他的、独占的に占有してきたとはいえないし、占有の範囲及び態様も不明確であるので、時効取得に必要な占有を継続したとはいえず、したがって、控訴人が本件土地一ないし六の所有権を時効取得したとは到底いえない。

第三  証拠

証拠関係は、原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

第四  当裁判所の判断

一  まず、本件書面作成前後の経過について判断する。

第二(事案の概要)二の事実、証拠(甲一の一ないし六、二ないし四、六の一ないし四、七、一二ないし一七、乙一、二、四及び五の各一、二、一二、一三、原審証人吉識百合子、原審における控訴人本人、原審における被控訴人本人、原審における調査嘱託の結果)によれば、以下の事実が認められる。

1  本件土地一ないし三、五、六はいずれももと吉識源次(以下「源次」という。)の所有であった。武雄は、ヨリと源次夫婦の二男であったが、右夫婦の長男吉崎逸雄(以下「逸雄」という。)が昭和五年一二月六日に死亡したので、昭和一九年一〇月二三日源次の死亡により、本件土地一ないし三、五、六を家督相続した。武雄と被控訴人との間には、長男の吉識徹(以下「徹」という。)、長女の吉識隆子(以下「隆子」という。)という二人の子がおり、武雄が昭和二〇年七月二六日戦死したので、本件土地一ないし三、五、六を徹が家督相続したが、徹も昭和二四年二月二八日に死亡したので、右各土地を被控訴人が相続した。

本件土地四、七ないし九[ただし、後記分筆前は、本件土地四、七は一筆の土地(旧二三四七番の一の土地)であった。]は、もと長男逸雄の所有であったが、昭和五年一二月六日、同人の死亡により、両親である源次とヨリが二分の一ずつ遺産相続し、源次の持分を二男武雄、武雄の長男である徹が順次家督相続し、昭和二四年二月二八日、徹の死亡により、右持分を被控訴人が相続した。

被控訴人とヨリは、右のとおり、吉識家の財産のほとんどを嫁である被控訴人が相続することになったこともあって一時不和となり、被控訴人は、吉識家を出て別居したこともあったが、昭和三四年ころには、吉識家の離れに戻ってそこに居住し、母屋に居住していたヨリ及び百合子と協力して田畑を耕作したりなどもしていた。

2  被控訴人は、昭和四四年一〇月隆子が婚姻してその夫婦と同居することになり、それまで居住していた離れでは、手狭となったので、道を挾んで向かいに位置する現在の本件土地七[当時は旧二三四七番の一(田、九二七平方メートル)の土地の一部]、本件土地八及び九に家を建てて別居することにした。そこで、まず、被控訴人は、当時本件土地九につき小作権を有していた吉識辰次との間で、被控訴人が相続したもと吉識家の財産であった二三五一番と二三五二番の各土地の所有権を譲渡する代わりに本件土地九の小作権を放棄してもらった。そして、次に、本件土地七ないし九のヨリの持分の移転を受けるべく、当時ヨリが老人性痴呆症の状態であり、百合子がヨリに代わってその財産関係一切を取り仕切っていたことから、本件土地七ないし九の農地転用許可手続等を依頼していた増田司法書士に間に入ってもらい、百合子と交渉した結果、双方合意に達し、昭和四六年二月一〇日、本件書面に百合子と被控訴人が署名押印した。

本件書面は、増田司法書士が作成したもので、そこには、被控訴人所有の本件土地一ないし三、五、六、本件建物(当時ヨリ、百合子、控訴人が居住していた吉識家の家屋)のほか、「二三四七番の田四六三平方メートル」(当時分筆未了であったために地番につき枝番が記載されていない。)につき控訴人に対する所有権移転登記手続を、ヨリの本件土地七ないし九(本件土地七については後記分筆後の面積が記載されていた。)の共有持分につき被控訴人に対する移転登記手続をそれぞれ履行することを約諾する旨記載されている。そして、本件書面による交換契約に基づき、ヨリの同月一〇日付け持分放棄を原因として、同月一八日、旧二三四七番一の土地、本件土地八、九につき、被控訴人に対し右持分移転登記が経由された。また、同日付けで旧二三四七番の一の土地が本件土地四と本件土地七に分筆された。

なお、百合子が、本件書面の作成に当たり、同人ではなく当時大学生であった長男である控訴人(昭和二七年一月二三日生)に所有権移転登記をすることを求めたのは、当時百合子が夫吉識健と不仲で長年別居していたものの戸籍上は離婚していなかったため、百合子名義にすると吉識健が干渉してくるのをおそれたからであった。ヨリは、昭和四七年に死亡した。

被控訴人は、昭和四七年末ころから昭和四九年ころにかけて本件土地七ないし九を宅地に地目変更した上でこれらを敷地として自宅を建築した。

3  百合子一家と被控訴人一家においては、耕作する人手が足りなかったし、それに見合う収益も上げられなくなったので、遅くとも昭和四七年度から本件土地一ないし六での米作りをやめた。

昭和四六年ころから、稲作転換対策により、米の生産調整や転作が奨励されるようになり、休耕田として承認されると休耕田補助金、転作と認められると転作料、転作奨励金ないし転作補助金等の名目で転作補助金(以下、名目にかかわらず「転作補助金」という。)の各支給が受けられることになったが、休耕田として認められるためには草刈りをし、常に耕作可能な状態にしておく(保全管理をする)必要があり、その期間は各田毎に三年を超えることはできず、転作と認められるためには転作対象作物を作付けすることが必要である。百合子は、昭和四八年度には六万円余の休耕田補助金、昭和四九年度には一万四〇〇〇円余の休耕田補助金、昭和五三年度には一万円余の休耕田補助金、昭和五四年度には合計三万一〇〇〇円余の休耕田補助金と転作補助金、昭和五五年度には合計八万五〇〇〇円余の休耕田補助金と転作補助金、昭和五八年度には七万四〇〇〇円余の転作補助金、昭和五九年度には二万円余の転作補助金の各支給を受けているが、その各対象土地は明確ではない。また、百合子は、いずれも本件土地四及び六につき、昭和六三年度には転作補助金四七〇〇円余、平成元年度には休耕田補助金四七〇〇円余、平成二年度ないし四年度には転作補助金各二七二〇円を受領している。本件土地一ないし三については、昭和六〇年度以降三年連続放置していたので、昭和六三年度に転作台帳から放棄田として削除されている。

本件土地一ないし四については、農地基本台帳に昭和六〇年ころまでは百合子が耕作者として登録され、そのころ以降は百合子に代わって控訴人が耕作者として登録された。

4  控訴人は、昭和六〇年度以降、本件土地一ないし四、六を対象土地として、部落支配割のうち反別割を負担してきた。支配割とは、部落の水田維持管理等に必要な経費を捻出するために賦課するもので、田畑については、田畑の所有者に賦課する田畑宅割と耕作者に賦課する反別割に分かれている(ただし、反別割は、当時は、現実には耕作していない放棄田にも賦課されており、また、申出や売買等で明らかに耕作者の変更があったことを部落の役員が把握しない限り従前の台帳の記載により分担が決められているので、反別割を負担していることが必ずしも現実の耕作を意味するものではない。)。

5  控訴人は当時大学生であり、農業にも従事していなかったため、被控訴人に対し、本件書面作成後直ちに、本件許可申請に協力してこれらの土地の登記名義を移転することを求めず、その後も百合子や控訴人と被控訴人との間は、特段の問題もなく円満な状態が継続していたため、控訴人は、被控訴人がいつでも本件許可申請に協力してこれらの土地の登記名義の移転に応じてくれるものと考え、これらを行うことを求めずにきた。しかし、たまたま本件土地一ないし四が福崎町営のグラウンド設営の候補地に挙がったことから、控訴人は、平成四年一月ころ、被控訴人に対し、本件許可申請に協力して本件土地一ないし六の登記名義を移転することを求めたところ、被控訴人が本件許可申請協力請求権は時効消滅したなどを理由にこれに応じなかったため、本件の紛争になり、控訴人から本訴が提起されるに至った。

被控訴人は、昭和五〇年ころ以降、被控訴人の自宅に隣接する本件土地四を畑にして野菜などを耕作しており、本件書面作成後も本件土地一ないし六の固定資産税を負担してきたが、控訴人が右固定資産税を負担しなかったのは、被控訴人から控訴人に対しその負担を求めたことがなかったからでもあった。

本件土地一ないし三は一団となって本件土地四に隣接し、控訴人の自宅と道をはさんだほぼ向かいにあり、本件土地五、六は控訴人の自宅に隣接し、被控訴人の自宅と道をはさんだ向かいにある。

二  次に、争点1(一)について判断する。

前記一で認定した事実によれば、本件書面により、控訴人及びヨリの代理人であった百合子と被控訴人との間で、ヨリの本件七ないし九の土地の共有持分を被控訴人に移転する代わりに被控訴人の本件土地一ないし六の所有権を控訴人に移転し、それぞれ各移転登記手続を行う旨の交換契約が成立したというべきである。

もっとも、被控訴人は、本件書面については、百合子の権限及び誰に対して何をすることを約束しているのかが不明確であるとか、本件書面において、本件土地四は控訴人に対し所有権を移転する対象に含まれていない、と主張する。

しかし、本件書面について、百合子の権限及び誰に対して何をすることを約束しているのかが明確であることは前認定のとおりである。また、本件書面において、本件土地四が控訴人に対し所有権を移転する対象に含まれていることは、前記認定事実(特に、本件書面の体裁)から明らかであるので、控訴人の右主張は理由がない。

三  次に、争点1(二)について判断する。

前記一で認定した事実によれば、控訴人において、本件書面による交換契約の締結された昭和四六年二月一〇日から本件許可申請協力請求権の権利行使が可能であったことは明らかである。

したがって、控訴人が右昭和四六年二月一〇日の翌日から起算して一〇年以内に本件許可申請協力請求権を行使しなかったので、その消滅時効が完成したということができる。控訴人のこの点に関する主張は独自の見解に立つものであって採用することができない。

四  次に、争点1(三)について判断する。

前記一で認定した事実によれば、次のとおり判断することができる。

すなわち、被控訴人においては、控訴人側から、前記二で認定した本件書面による交換契約によって約定された本件土地七ないし九のヨリの共有持分の移転およびその旨の登記を受け、右各土地を自宅の敷地にしており、控訴人による本件許可申請協力請求を拒否する実質的理由は全くない。本件書面が作成された経緯は前認定のとおりであり、右交換契約成立より前のヨリらと被控訴人が不和であったときのいきさつはともかく、右交換契約は被控訴人の都合によりその意思に基づいてされたものである。また、控訴人側も、本件土地一ないし六に無関心であったわけではなく、右交換契約後、百合子において本件土地一ないし六の一部については休耕田補助金、転作補助金の支給を受け(右支給を受けられる程度には、これらの土地を管理していたということができる。)、本件土地一ないし四については農地基本台帳に百合子ないし控訴人が耕作者として登録され、本件土地一ないし四、六についての支配割のうちの反別割を負担するなどしているのであって、被控訴人は、百合子の義理の姉で、控訴人の義理の叔母に当たり、被控訴人の自宅と控訴人及び百合子の自宅は道をはさんで向かいにあり、本件各土地は近隣に存在することから、被控訴人は控訴人の右登録や反別割の負担等の事実を了知していたものと推認され、かつ、双方の関係も右交換契約締結後は円満な状態が継続していたのであるから、百合子や控訴人が、被控訴人においていつでも本件許可申請に協力してこれらの土地の登記名義の移転に応じてくれるものと考えていたため、これらを行うことを求めずにきたとしても無理からぬものであり、被控訴人が、本件土地一ないし六の固定資産税を負担しており(これも、被控訴人から控訴人にその負担を求めたことがなかったからでもあった。)、本件土地四を昭和五〇年ころ以降耕作していることを考慮しても、控訴人が本件許可申請協力請求権につき権利の行使を怠っていたものとまでいうことはできない。これらの事情を考え併せると、被控訴人が控訴人に対し、本件許可申請協力請求権の消滅時効を援用することは、信義則に反し権利の濫用として許されないというべきである(なお、被控訴人は、本訴提起後に本件土地四、六についての補助金を被控訴人側が受給することになったことを指摘するが、本訴提起後の事情は右判断を左右しない。)。

五  以上の次第で、控訴人の主位的請求は理由があるからこれを認容すべきところ、右と結論を異にする原判決は相当でないからこれを取り消すこととし[なお、控訴人は、原審において、当審での主位的請求を予備的請求、当審での予備的請求を主位的請求とし、原判決は、右各請求をいずれも棄却したが、控訴人は、当審において右のとおり請求の順序を改め、本判決では、当審での主位的請求が認容されたから、原判決中原審での主位的請求(当審での予備的請求)を棄却した部分は当然に失効したものというべきである。]、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中田耕三 裁判官高橋文仲 裁判官中村也寸志)

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